お釈迦様を誘拐〜3人の泥棒の冒険記〜輪廻の無い世界編
はじめ
お釈迦様が誘拐された
輪廻しない世界では大変な騒ぎとなった
例の3人組は刑務所を脱走する時に不幸にもバンに正面衝突されて今までの行いのせいで当然地獄行きとなったが 鬼や仏を誑かせて輪廻しない世界へとやって来た そこは現世では想像もつかない程壮麗な世界で 黄金の街が果てまで続いていた 道端に転がる小石も黄金でできていて 3人組はお釈迦様のお住みになっている巨大な黄金の宮殿まで辿り着くまでには黄金で体中が一杯だった
街中で人々に話を聞くと どれくらいの量の黄金でも お釈迦様の発するお言葉に勝らない ということだった 3人組はニヤリとお釈迦様を誘拐することを企み 宮殿に召し使いに扮して忍び込んでいった
お釈迦様のいる部屋に辿り着くまで気の遠くなる程の時間がかかった 途中で一番下っ端の僕は歩き疲れて眠りそうだった それを二人の兄貴達が頭を小突いて意識を取り戻させとぼとぼと果ての見えない廊下を歩いていった
朦朧としていた意識を一瞬にして目覚めさせたのは お釈迦様の豪華絢爛の眩しい部屋の光を浴びた時だった 心が洗われるような…しかし根っからの悪党である僕らには欲を刺激するだけだった 僕達は本当に地獄行きが相応しいのだ
お釈迦様は巨大な蓮の中で静かに瞑想をしていらっしゃった その顔はこの世のものとは思えないほど美しく 僕達はその表情にうっとりした お釈迦様は瞑想をして目を閉じているのに そこの3人組よ 入って来なさい 何か私にご用ですか と小鳥が囀るような美しい声で僕達に呼びかけた
一番上の兄貴は そうです少し所用がありまして お尋ねしたいことがあります…と答えつつ 僕達に3方向からお釈迦様を捕まえてロープで縛り付けようという作戦に出たのだ 僕達は兄貴の案に承諾しつつ ロープを両手に持って静かに回り込んで行った 徐々に歩幅を狭めていって 兄貴が ほら今だ!! と大声で喋ると 僕達は飛んでお釈迦様をロープでぐるぐる巻きにした その一瞬お釈迦様の顔を見たが一つも表情を歪めず まるで人形のように大人しく僕らに捕まった
お釈迦様を黄金の入った袋の中へ入れ 僕達は宮殿を脱走し 街を抜け黄金の草が生い茂る丘へとやって来た ここからは黄金の海が見下ろせた 既にお釈迦様が誘拐されたことは世界中に広まり 僕達を指名手配していた 兄貴達は満足気な顔で この海を越えて元の世界に戻ろう そしてこのお釈迦様を見せ物にしてボロ儲けするのだ と大笑いした すると突然お釈迦様が袋から物凄く端正な顔を出して 僕達の心に囁きかけるようにこう言った
私はどうなっても構いません しかし貴方達の心をそのままにしておくと内側から腐っていき体もいずれ滅びるでしょう 罪を悔い改めなさい そうすれば死後貴方達はいつの日か解脱してこの世界で永遠に暮らせることでしょう 貴方方の両親もきっと現世で悲しんでいることでしょう 私は自分が助かりたいからこんなことを言っているのではありません 貴方達の為に言っているのです もう一度悔いを改めなさい そして祈るのです 私達には明日という希望があるということを そして感じるのです 全ての世界の恩寵を そう言い終えると僕達は不思議と大量の涙を流して頭を垂れていた 兄貴は その通りだ オッシャカさん 俺達は何て重い罪をやってしまったんだろう 現世で生きている父ちゃんと母ちゃんに申し訳ない こんな姿はとてもじゃないが見せられない 俺達が悪かった あんたの説教は天下一品だよ 俺達は間違っていた もうすぐここの居場所が他の奴らに分かるだろうな それまで辛抱していてくれ ほらロープは外すからよ ホントにすまねぇ…
僕達は目を潤ませながらお釈迦様のロープを解いてあげた 遙か向こうから激怒した人々が向かってくる 僕達は黄金色の空を見上げながらお釈迦様の微笑みをちらりと見ていた
僕達は地獄へ連れ戻される途中 不慮の事故で現世に息を吹き返し 刑務所の慰安室で意識を取り戻した
なんとまぁ3人とも同時に不思議な体験をしたもんだと言い合いながら 泥棒をこれからも続けていくのかという極論にぶち当たった 兄貴はお釈迦様の前で大泣きしてあんなことを言っていたのにも関わらず オレ達から泥棒を取ったら何が残るんだよ と言って僕達2人の頭を小突いた 僕達は笑い合いながらまた泥棒を続けることに決めた 鉄格子の挟まった窓からは輪廻しない世界の黄金色と同じ太陽の光が射し込んでいた
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ハラハラドキドキ!! 3人(匹?)の盗賊団!!