少女の死刑
なかがわひろか

私を死刑にしてください
私を死刑にしてください

街行く人に向かって
私は大声で叫びます
みんなが私を振り向いて
みんなが黙って去っていきます

お嬢ちゃん
一人の紳士が声をかけます
そんなに死刑になりたいなら
誰かを殺したらいいんだよ

ねえおじさま
私は答えます
私にはそんな度胸などないのよ
だけど死刑になりたたいの

おじさんは困った顔をして
今から知り合いの裁判官とお話してみよう、と
私をその人の元へ連れて行ってくれました

裁判官のおじさまも
私を見て
どうして死刑になりたいのかね、と言いました
理由はわかりません
だけど朝起きたら
もう死刑になるしかないと思いました、と正直に答えました

裁判官のおじさまは
同じ様にとても困ったような顔をしましたが
何分か考えてから
お嬢ちゃんがそこまで言うなら、と
やっと引き受けてくれました

私は明日死刑になります
特例で誰にも口外されません
私は今とてもドキドキしています
やっと念願の死刑が叶うのですから

もうすぐ時間がやってきます
私は二人のおじさまに感謝の意を伝えて
死刑になります

それはとてもとても
幸せなことのように思えました

(「少女の死刑」)


自由詩 少女の死刑 Copyright なかがわひろか 2007-05-31 01:48:48
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