某の主人
第2の地球

某は 老人ホームに住む 認知症の老女である
よく虚空を見つめて笑うが その先になにがあるかは まだ教えたくない

某には 主人が居る 
他の家族は 来たことが無い
某には 主人しか居ない

某の主人は いつも夕暮れ時に現れて 某に夕飯を食べさせてから
「よろしくおねがいします」といって 帰る

「もうこいつは わかんないから この方がはやいしね」

某の主人は 某の食事をフルーツからおかずから 全部まぜこぜにしてしまう
某は それを全てたいらげる

某の主人は 必ず手土産に 某にプリンを買ってくる
一度に何個も買ってくるので 某はまいにちまいにちプリンを食べる

「こいつはこれがだいすきなんだよ」
某の主人は プリンだけは まもるようにしている
そのたいせつなものだけは けしてまぜこぜにして食べさせるようなことはしない

「こいつはこれがだいすきなんだよ」
某は プリンを食べる
「じゃあ よろしくおねがいします」 
某の主人は帰る
某は最早 そちらを見ることもできない

テーブルには プリンの残骸と 
それをみつめて笑っているかのような 某がひっそりと佇む


自由詩 某の主人 Copyright 第2の地球 2007-05-30 21:45:21
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