某の主人
第2の地球
某は 老人ホームに住む 認知症の老女である
よく虚空を見つめて笑うが その先になにがあるかは まだ教えたくない
某には 主人が居る
他の家族は 来たことが無い
某には 主人しか居ない
某の主人は いつも夕暮れ時に現れて 某に夕飯を食べさせてから
「よろしくおねがいします」といって 帰る
「もうこいつは わかんないから この方がはやいしね」
と
某の主人は 某の食事をフルーツからおかずから 全部まぜこぜにしてしまう
某は それを全てたいらげる
某の主人は 必ず手土産に 某にプリンを買ってくる
一度に何個も買ってくるので 某はまいにちまいにちプリンを食べる
「こいつはこれがだいすきなんだよ」
某の主人は プリンだけは まもるようにしている
そのたいせつなものだけは けしてまぜこぜにして食べさせるようなことはしない
「こいつはこれがだいすきなんだよ」
某は プリンを食べる
「じゃあ よろしくおねがいします」
某の主人は帰る
某は最早 そちらを見ることもできない
テーブルには プリンの残骸と
それをみつめて笑っているかのような 某がひっそりと佇む