六月の調べ
銀猫
雨音は冷やかな旋律を奏で
五線譜に無数に付いた蕾は
一瞬、水晶となり地表に還る
傘は持たないのだと
わらって言い切るきみの肩は
今頃震えていまいか
そう告げればまた
きみはわらって
いたずらな子供のように
わたしから熱を奪ってゆく
寒くは無いと言い張るきみの
列車を見送ると
薄い水の膜を通し、
風景は水晶に飲み込まれて
遠くのひかりを乱反射してみせる
ひとつ残された傘は
ほろほろと雫を落として
泣けなかった涙を
灰色の足元に散らかしてゆく
約束ごとは
雨の糸にかろうじて繕われ
薬指の先で絡まっては解け
いつか、を繰り返す
濡れた髪を耳にかけると
左手でたどたどしく追う音譜のように
さ、び、し、い、と雨の声
いつかもこんな音を聴いた