六月の調べ
銀猫

雨音は冷やかな旋律を奏で
五線譜に無数に付いた蕾は
一瞬、水晶となり地表に還る

傘は持たないのだと
わらって言い切るきみの肩は
今頃震えていまいか
そう告げればまた
きみはわらって
いたずらな子供のように
わたしから熱を奪ってゆく

寒くは無いと言い張るきみの
列車を見送ると
薄い水の膜を通し、
風景は水晶に飲み込まれて
遠くのひかりを乱反射してみせる


ひとつ残された傘は
ほろほろと雫を落として
泣けなかった涙を
灰色の足元に散らかしてゆく

約束ごとは
雨の糸にかろうじて繕われ
薬指の先で絡まっては解け
いつか、を繰り返す

濡れた髪を耳にかけると
左手でたどたどしく追う音譜のように
さ、び、し、い、と雨の声
いつかもこんな音を聴いた




自由詩 六月の調べ Copyright 銀猫 2007-05-30 20:40:59
notebook Home