ひまちゃん
佐野権太

あなたのご推察のように
私の頬袋という港には
一艘の縞模様が
静かに停泊しております

ふとく、ほそく打ち寄せる
うるわしき流線の集合する先端を
風に尖らせ
凝縮された夏色の系譜は
まもなく
私の内側を
美しく帆走するでしょう

何でしたか
そう、ひまちゃん
このふくらみが
ひまちゃんかどうかは
わかりかねます


  (週末に蒔くはずだった
  (ひまちゃんが
  (捕われています
  (家族の数だけ咲かせようと
  (菱形の一角であった
  (ひまちゃんが
  (捕われています
  (僕は
  (どうしたらいいのかな

  (ふくらみをつないで
  (誕生する命の奇跡
  (六十日で
  (にせんつぶ


えっ、マジで?
へっへっへっ
旦那も、人が悪いや
そうならそうと
先に言ってくれりゃあいいものを
そんなもん、なんぼでも
っと、ところで
しちさんで、どうすか?
えっ?

やめてぇー
こうみえても
デリケートなんで
そんな
ご無体な
もがっ



わたしには表情というものがないので
先程から、こう、両側の皮膚を寄せて
申し訳ない気持ちを
発信しておりますが
どうにも不機嫌そうな
顔立ちになってしまうのは
不徳の致すところであります
あの、せめて
ごぶ、いや
しぶろくで
あ、って
また
もがっーーーー







自由詩 ひまちゃん Copyright 佐野権太 2007-05-30 17:53:51
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