夜の足音
はじめ

 森の中の小さな家で僕は詩を書いて暮らしている
 昼間は材木会社で働いていて 僕の住んでいる森の遠い場所で伐採をしている
 暗闇が好きで蝋燭の炎だけを灯してパソコンに向かって詩を書いている
 僕は森林伐採には反対だ しかし生きていくには大木を切って丸太にしなければならない
 仕事と詩を書くこと以外は寝ている 僕には友達がいないのだ
 しかし世界中にはネットフレンドが沢山いる どいつも顔さえ分からない
 僕は暇さえあれば詩を書いている 相当詩を書くことが好きなのだろう
 暗闇と静寂の中で僕は紺色に染まった空に月が沈んでいくのが見える 月よ叫べ
 この森には終わりが無い 昔のアマゾン川のように
 僕は詩を書く為に生きている 別に頭がおかしいわけではない
 地球人に星を滅ぼされたエイリアンが森を少しずつ食い荒らしている
 小鳥と虫の鳴き声の聞こえる川に行くと
 僕は川の流れ方と川の匂いと川の音が面白くてついじっと見つめていることが多い
 空には名前の分からぬ鳥が飛んでいる
 僕はこの1日が絶え間なく流れる川のようにゆっくりと流れているように感じられる
 開けた川の中島に立って両手を広げて太陽と夕焼け空とその他の景色に感謝する
 僕はそれから歩き回って 色々な場所を見ていった
 小説や雑誌に載っているけばけばしい大都会のネオンは想像と違っていたし
 ダークな印象が僕を落ち着かせた
 竹とんぼを飛ばす子供を巨大な公園のベンチでぼんやりと眺めて
 ズボンのポケットに入っていた冷えた携帯を撫でて
 僕はゲーリーのアフリカ系アメリカ人街でホットドックを食べる想像をする
 僕は温くなったコーヒーを飲み干し パソコンから目を離す
 この暖かい暗闇がいい
 僕は部屋の隅のベッドに行き隅から部屋全体と窓の外を眺めている
 あぁ世界貿易センタービルにハイジャックされた飛行機が突入したんだったな と思う
 僕は狭い世界に住んでいるのかもしれない
 蝋燭を消して完全な暗闇が身を乗り出すと
 僕の心は暗闇と共鳴する しかし孤独である
 何処か遠くから木を伐採する違法業者のチェーンソーの音とトラックの音がする
 動物達はまだ生きられる場所があるから平気だと思いがちだが それは時間の問題だ
 暗闇と静寂に何を答えても何も帰ってこない
 ただその二つの薄い絹が重なるのが見えるだけだ
 僕は寝そべりながら唾を飲んだ
 今日も違法業者とエイリアンの浸食する足音が聞こえてくる


自由詩 夜の足音 Copyright はじめ 2007-05-30 05:31:57
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