欲望
結城 森士

暗い所に立っていた。丘の上の。静かな。
人達は、教えてくれなかった。
僕が危険なところにいることを。
僕が助けようとした少女は
自ら崖の下に落ちていった。笑っていた。
僕は座り込んで、震えていた。
ひどく冷めた月が、降って来る。蒼い。
        光のある方向に白い傘が落ちる
             十一の瞳が僕を見る
               光を伴っている

人々は教えてくれなかった。
とても冷めた目で僕を見る。
その場所はとても危険で、
僕は既に足を踏み入れていた。
僕は。僕の白い、蒼ざめた手を見て
ただ、誰かに助けを求めようとした。
慈雨はただ去るばかり。
激しい雨が降る。

暗い。此処は。
光は、闇に掻き消されるものなのだな。







諦観として。
僕に人を許すことが出来るのなら、
貴方を許したい。そしてそれが貴方を想う気持ちの
最たるものであるのならば、僕が冷め切っていても
そこに愛があるものだと信じたい。
もしそれが可能なら、
僕は僕のこれからの出来事の全てを
許すことが出来るのだろう。
生きていけるのだろう。

守りたいもの。
命を賭けても守りたいもの。
譲れないもの。大切なもの。
絶対に妥協しないこと。許さないこと。
例え犠牲が生まれようと、貫けるもの。
それを信じることが出来るのなら
僕はとても情けない生き方をしていたとしても
自分を愛することが出来るのだろう。
守っていけるのだろう。




暗い、とても暗い。
誰も知らない。
誰も教えてはくれない。
暗い。そして、呼吸が苦しい。
僕についてくることは出来ない。
僕には、美学を証明することが出来ない。
孤独が美しいものだと想っていたとしても。
贖罪こそが人生だと信じていたとしても。
人一人、幸福にすることが出来なかった僕に
生きる資格も無い。僕には資格が無い。
誰か僕が危険な場所にいることを教えて欲しい。
どうか、僕を遠くから眺めて笑いものにするのはやめて欲しい。
どうか、僕の傍にいて、ただ一緒に立っていて欲しい。
どうか、僕を独りにしないで欲しい。
どうか、僕が危険な場所に立っていることを教えて欲しい。
どうか、僕の正しいと思っていることを否定して欲しい。
どうか、光のある場所を教えて欲しい。

ただ、僕に、詰まらない蛍光灯のある場所など教えてはいけない。
とにかく此処は、とても暗い。





僕には生きる資格が無い。
だけど死ぬ勇気もない。
生きるしかないという言葉すら死んだ。
僕には生きる資格が無い。
だけど、痛い思いをして死にたくも無い。
これは欲望だ。



未詩・独白 欲望 Copyright 結城 森士 2007-05-29 23:24:40
notebook Home