不安
蔦谷たつや

小さな虫は不安でした
彼は自分が自分であることに不安でした
彼は或る時、彼のおじいさんに言われたのでした
自分は自分であるしかないのだと
それ以来、彼は、自分が自分であることに不安でした

―不安
僕らにはこれを云いようもありません
いや、云いようもないこと、すなわちそれが、
不安というものなのでしょう
きっと、お空のお星様もお月様も太陽様も
皆、不安なのです
あなたももちろん不安なのです
そうやって、うそをついてはいけません

彼はやがて、自信の不安に不幸さえ覚えました
ですので、彼は、種族に賢者しかいないという
大きな虫達がいる国へ、旅にでようと思いつきました
或いはそこに、不安のない世界があるかもしれない―
彼は愚かでした

旅の準備ができた―
ちょうどその時でした

ひゅーゅー
大きな影が彼をつつみました

ぐしゃり
彼から、不安、いや、彼のすべてが
なくなりましたとさ


自由詩 不安 Copyright 蔦谷たつや 2007-05-27 21:19:32
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