匂い
なかがわひろか
あんたの部屋に入ったら
嗅いだこともない香りが鼻についた
こんなんあんたがつけるような匂いやない
どこぞの女が残した匂いや
せやけど、ええ匂い
あんたに抱かれてるとき
あんたはあたしの髪を
櫛で梳くように撫でた
今までそんな撫で方しいひんかったのに
せやけど、気持ちいい
あたしも
おんなじような匂いのする香りをつけて
あんたの気を引いたろかって思うけど
多分あんたは
あたしのその匂いを嗅ぎながら
その人のこと思い出す
せやから
あたしにはできへんねん
髪撫でられても
黙っとくことしかできへんねん
この部屋の香りは鼻につく
きっとあんたに会うために
シャンプーしたりリンスしたり
いろいろ時間かけてから来た匂いや
この匂いが消える頃に
また来るんやろ
せやけど、せやけど
ええ匂いや
(「匂い」)