春憬
朝原 凪人

     一

春をあげるよ
ツバキの葉にうっすら積もった春を
人差し指でそっと集めて貴方に
栞にしてみてはどうだろう
本を開くたび春の匂いが漂うように
カーテンにしてみるのもいいかもね
朝陽を透かして部屋が春色に染まるように
冬が嫌いな貴方に届けます


     二

「かえしてくださいよう。かえしてくださいよう」
さっきからツバキが煩く喚くんだ
「冬の風が凍みるのです。かえしてくださいよう」
寒さこそお前を咲かせるために必要なのに
冬こそお前が映える季節なのに
春は既にお前の中にあるというのに
それでも春を望のか
なあ、椿よ


自由詩 春憬 Copyright 朝原 凪人 2007-05-27 00:56:07
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