コーヒーの香の中に溶ける
いねむり猫

肩に食い込むカバンを引きずり 
やっとの思いで 夕暮れの喫茶店にたどり着く
でも 
いつものコーヒーが いつもの香を運んでこない
この場所は 私を受け入れてくれない

その時 
私の大好きな音楽があたりに満ちて

テーブルの肌触りや天井のダウンライトの光が変わる

世界が私に近づいてくる

座っている椅子が私に親しくなじみ
口に含んだコーヒーの味が鮮やかになる

生意気で騒がしいだけの若者のグループが
若々しい力に満ちた好ましい幼さに変わる

空虚な打ち出しのコンクリートの壁が
音楽と人声を満たした はちきれそうな空間を
やさしく包む 柔らかな繭になる

古びて色を失った世界が
すがすがしい水と使い込まれた清潔な布で拭き清められて

ほこりの下から 生まれたばかりの色と形をすくい上げる

生まれ変ったものたちが 
それぞれにゆらいで ふるえて
つながりはじめる

私はコーヒーの香の中に溶ける





自由詩 コーヒーの香の中に溶ける Copyright いねむり猫 2007-05-26 07:41:51
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