うさぎは幸せだったか〜愛し方について〜
a/t
今夜はうさぎのお話をします
*
その詩人は愛するうさぎのために
十日ものあいだ寝食を忘れ
うさぎに捧げる愛の詩集を書いておりました
みなさんご存知の通り
うさぎは淋しいと死んでしまうもの
いつも存分に自分をなでてくれていた詩人が
十日ものあいだ一度も来ないのです
普通ではいられません
自分のために寝食を忘れ詩集を書いていると
知ってはいたけれど
それでもやっぱり淋しくて
淋しくて淋しくて淋しくて
十一日目の朝とうとう死んでしまいました
皮肉にもそのすぐあと
うさぎの亡き骸を家族が囲んでる頃
書き上げた愛の詩集を手に
詩人がうさぎのドアを叩いたのです
うさぎの家の者が言うには
彼女の最後の言葉はこうでした
「あたしはなんて幸せ者なのでしょう
こんなあたしのために詩集だなんて
でも間に合わなくてごめんなさい
愛する詩人さん
あたしはうさぎだから
淋しくなってしまったの
ああもうだめです
おねがい詩人さんに伝えて
あたしはいま幸せです
とってもとっても幸せです」
それを聞いた詩人は
書き上げた詩集を抱きしめ泣きました
「ああうさぎ
こんなにも愛しているのに
おまえのために命をかけてこれを作ったのに」
詩人がうさぎのために書いた詩集は
それはそれはすばらしいもので
多くの人が涙とともに称賛したということです
詩人はそれから先も
亡くなったうさぎへの詩をたくさん書き
人気を博しました
「きっとうさぎも喜んでくれてるだろう」
そう信じて書き続けました
*
果たしてこのうさぎは
本当に幸せだったのでしょうか
私は身のまわりの愛するものたちを
私なりに愛しているつもりですが
うさぎと詩人のこの話を思い出すと
どうにもこうにも
不安になってしまうのです
(了)