何も知らず私達は。
灯和

 ふと、風が止んだ。


 ひととせの幻を手に 
 いくとせも彷徨う旅人
 一体何に酔っているというのか。
 帰る場所は何処どこに捨ててきたというのか。


  正午を少し回った噴水公園で
  時計の長針が
  一滴の影を落とす
  行き交う人のさざ波は
  時計のネジを巻き戻そうとするのだが
  なにしろ時計は上手いこと
  噴水の中に潜ってしまうので
  誰一人手を触れることはない。
     (人々はそれを自覚していない)


 乙女座を追いかけて月が沈んだ
 そこに運命さだめを見出すことは
 私の己惚うぬぼれであろうか
 もしくはエゴイズムであろうか?
     (私達はそれも自覚していない)


 黒い蝶々を追いかける風が
 かなしみを越えて、もしも再び
 私の元へやってきたなら。
 
 明日の空に行き場を失くした、
  残酷なまでに愛された歌を
 私は口ずさむこともなく、
  夜明けへと葬ってしまうかもしれない。
 


自由詩 何も知らず私達は。 Copyright 灯和 2007-05-24 19:02:31
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