メランコリーの砂浜
soft_machine
砂浜のちいさなたそがれに汐風をうけて
ふとった子蜘蛛が舞い降り詩集の端の水をのむ
大気中のかなしみも八つにきざみ鋏角にはこび
せんべいのように噛みくだかれたこころ
わたしはお前に咀嚼されながら
はじめてのあたたかいなみだを流す
お前 どこから飛んできた
お前 どこへ飛んでゆく
蜜蜂の毒にしびれた青虫が
うっとりと眠っている
松葉のうえに敷きつまったつつましさ
そこにことばは策を弄するしかできない
太陽に焼かれるすべてのいのちが風に
さらに燃やされるのを眺めるきりで
寝ころんだ背中をいったりもどったり
ことばは 心を語るだけだ
ことばは 鳴きながら空へただよう
入道雲の下に消えてゆく波乗りたち
彼らにされた呼吸こそ手にとどく宇宙
飽きもせずメランコリーのかみそりでなで
旋回する鳶が凹凸した水を慣らす時刻だから
友はオルガンの響く海におかえり
わたしは唇がまっさおになるまで
楽器を打ちすえことばに代えよう
母親はあの白い月
おしりの糸を手繰ってゆければ
このこえも、生まれた天へとのぼるだろう