不思議の森の、叶えの樹
なかがわひろか
不思議の森の叶えの樹は
どんな願いでも叶えてくれるそうな
その樹の枝は決して折れることはなく
とある男はその枝のおかげで
安心して首を吊ることができたそうな
ただ不思議の森に入るには
入り口の老婆の許可が必要で
滅多なことでは入ることができなかった
まだ小さな少女が入ることもあったし
先の男のように老齢の者が入ることもあった
貧乏人もいれば
地位や名誉を得た金持ちの時もあった
かと言ってどれだけ金を払っても入れない者もいたし
無理やり入ろうとして
老婆の側近に撃ち殺される者もいた
殺されたそいつの目玉を
老婆はその晩の酒のつまみにしたそうだ
どこかのテレビ番組のインタビュアーが
老婆に森に入る者の基準を聞くために
老婆にインタビューを試みたが
目玉臭い老婆の唾を吐きつけられるだけで
何一つ得ることができなかった
かく言う私は
先刻老婆の許可を得て
森の中に足を踏み入れた
叶えの樹にはどうやって行けばいいかと聞くと
そのうち目の前に現れるよと言われた
森に入るための基準を
決して誰にも言わないようにと釘を刺されたが
一度森に足を踏み込んだやつで
二度と出てきたやつはいないんだよと
老婆はふふふと笑った
真っ暗な森の中
まだ叶えの樹は見つからない
私は一つの願いを胸に
森の中を歩いていく
(「不思議の森の、叶えの樹」)