月は渡る
麻生ゆり
その夜の月は
暗闇の中にぽっかりと開いた
白い穴のように
輝いておりました
私は
目を背けることができず
ただただ
見つめておりました
月は
ほんとうにまん丸で
とっかかりがありませんでした
ただただ
光をつき放すのみなのです
せかせかと
向かい風のように
あっという間に過ぎ去っていく人と
月とを一緒に眺めると
その丸い月は
死んでいるように
見えました
つんつんと
針葉樹のように
天を突きさすビル群の
間にうかんだ満月は
いったいどういうわけなのか
生きてるように
見えました