リアル
灯和

 硝子の靴の落ちる音。
 振り返った君の瞳に
 今は、悲しみが見えない
  ・・・安堵するにはまだ早いけれど。


 朝日の落ちたリヴィング・ルームは
 持ち主のいないティーカップを浮き立たせて
 あまりの静けさに
 カーテンも、開くことを躊躇っているらしい
 (そう、彼は旅立ってしまったのだから。)


 雨  あめ、と呟く
 君自身が雨に流されてしまう前に。
 もう二度と差すことはないだろう、彼の傘の
 沈黙を守るために。

「 それは美しく、彼は散り果てた  空に!」
 君は息をすることを止めて、彼を思い出した。

 
 指先から空になる感覚が
 また息をはじめた君の瞳に、
 今 映った悲しみが
 一瞬だけ僕のリアルと同化して
 嗚呼!水溜りの中に小さな染みをつくる

    誰もいないリヴィング・ルームで硝子の靴に変わる 


自由詩 リアル Copyright 灯和 2007-05-22 20:33:56
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