リアル
灯和
硝子の靴の落ちる音。
振り返った君の瞳に
今は、悲しみが見えない
・・・安堵するにはまだ早いけれど。
朝日の落ちたリヴィング・ルームは
持ち主のいないティーカップを浮き立たせて
あまりの静けさに
カーテンも、開くことを躊躇っているらしい
(そう、彼は旅立ってしまったのだから。)
雨 あめ、と呟く
君自身が雨に流されてしまう前に。
もう二度と差すことはないだろう、彼の傘の
沈黙を守るために。
「 それは美しく、彼は散り果てた 空に!」
君は息をすることを止めて、彼を思い出した。
指先から空になる感覚が
また息をはじめた君の瞳に、
今 映った悲しみが
一瞬だけ僕のリアルと同化して
嗚呼!水溜りの中に小さな染みをつくる
誰もいないリヴィング・ルームで硝子の靴に変わる