小鳥と青年
はじめ
自分の歌声に酔いしれる黄色い小鳥
あぁ俺はきっと世界一歌が上手いんだなぁと思った
黄色い羽もチャーミングだしきっとあのままペットショップにいたら雌にモテモテだったのに
でもこの歌は飼い主の青年から教えてもらったんだった 自分の部屋に閉じこもりがちな彼は青白い顔をして一日中ずっと布団の中に入っている
何処か具合が悪いのか強いて言えば 彼は心の病気で外にあまり出られないらしいのだ
病気のことも彼が俺に向かって毎日毎日耳にたこができるぐらい聞かされた
彼は母親に付き添われて病院に行った帰り ペットショップに寄って俺を購入した 俺はペットショップが好きだったから俺の住んでいる鳥籠を店長につまみ上げられると イヤだイヤだと抵抗して彼に飼われるのを拒んだ しかし彼の暖かい心から発せられる熱のようなもので俺はコイツに飼われてもいいなと思うようになった
それからコイツの部屋に鳥籠が移されてからは 毎日毎日聖書を片手に歌う彼の賛美歌を聴かされた 彼の歌声は素晴らしく 圧倒された まるで復活した救世主が歌っているように 俺は自分が何の種類の鳥かは分からない だが一度聞いた歌に関しては完璧に歌いこなせる能力があるのだ 俺は自分の特技を彼に見せた すると青年は お前は天才だよ!! と言って 俺を鳥籠から出して両手で包み親指で体を撫でてくれた
そんなことしてもらったのは生まれて初めてだったからとても嬉しかった 俺はどんどん調子に乗り 彼の歌った賛美歌を完璧に覚えていった そしてその度に自慢の歌声を披露した すると徐々に彼の心の扉が開けてきたような気がした 彼は俺が歌うと前より明朗になり活発的になりしょっちゅう俺を散歩へ連れて行ってくれた 俺は歌うことよりも散歩が大好きだった 世界ってこんなにも広いのかと驚きを隠せず 知らない生き物達が風に揺られて歌を歌っている声が聞こえてきた 皆全知全能の神を尊敬しているのが分かった この素晴らしい世界を創ってくれた神に俺は感謝の念を込め天高々に賛美歌を熱唱した
ところがある日今日も彼から賛美歌を習おうと彼に鳴いてみても反応が無かった 俺はまだ寝ているのだと思い 起こしちゃえと思って ピーピー鳴いていると 突然彼の母親が部屋に入ってきて彼に近づいた すると母親は慌てた様子で片手に俺と同じ体の色の入った瓶を持って急いでお父さん!! と叫んで下に降りていった どうしたものかと彼の口元を見ると 黄色い錠剤が枕の下にばらまかれてあった 俺は愕然とした 彼は自殺をしてしまったのだ 手にはボロボロに擦り切れた聖書が握られており 賛美歌の最後のページを開いたまま死んでいたのだ 俺は声すら出なかった しばらくすると白いヘルメットを被った青年達が彼を担架に乗せて運んでいってしまった 数日後 この家で葬式があった 俺はただ下から聞こえてくる嘆き声を聞いているしかなかった 俺は悲しみに沈み 初めて目を潤ませた
現在 俺は一階に降ろされて彼の写真の横で彼の両親に賛美歌を聴かせている