私料理
なかがわひろか

愛しいあなたは
きっとお腹を空かして帰ってくるでしょうから
私は私を切ったり焼いたり煮たりして
おいしい料理を作りました

帰ってきたあなたは
皿の上に載った私を平らげて
そのまま眠ってしまいました

あなたの中は
とても温かくて
やっと一つになれたという実感でいっぱいでした

ただ幸せな時間は
いつまでも続くことはありません
チクチクとあなたの胃酸が
私を突き刺して
いつしか私を溶かしてしまいます

私のいくつかは
あなたの血や肉となることができましたが
ほとんどが異物とされ
何日かしてあなたから排泄されました

私は臭気の中を彷徨って
川に出ました
そしてお腹を空かせた魚たちが
一斉に私を食しました

私を食した魚たちは漁でつかまり
私は消化される前に
店前に並ぶことができました

育ち盛りの子どもたちや
お父さんの晩酌のつまみに
私は差し出されました
みんなおいしそうにパクパクと食べてくれました

たくさんの人のお腹の中で
私は今度は消化されまいと必死でした
そしてなんとか
彼らの体の一部になることができたのです

私は彼らと共に成長して
やがて彼らの体を支配するまでになりました

そして私はいてもたってもいられず
あなたに逢いにいったのです
他の私たちも同じことを考えていたようです
皆あなたに逢うために
列を成しました

あなたはいつかと変わらず
お腹を空かせて帰ってきました
私たちは我先にと
またいつかのように
私を料理し皿に盛りました

あなたはあの日と同じように
皿の上の私たちを平らげました
次から次へと
あなたに逢いに私たちが
どんどん私を料理していきました

あなたは皿に並ぶ私たちを
次々に平らげていきます
そうやって
私はどんどんあなたに蓄積されていきます

あなたはぶくぶくと太りだし
そのうち誰もあなたに見向きもしなくなりました
あなたは家から出ることもなくなり
ひたすら私を食べ続けました

そうやって
私たちは
ずっとずっと一緒にいることができるようになりました
私には今の時間が
とてもとても
幸せでなりません

(「私料理」)


自由詩 私料理 Copyright なかがわひろか 2007-05-22 00:02:38
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