アンタレス 
Rin K



   一  アンタレス disk1


君と夜の海辺を散歩していた、
はずなのにいつのまにか
空を歩いていた

頭上に、海
でも今日はよく晴れていたから
涙の一滴も落ちなくて
そういえば君も
今日は快晴で、よく灼けたし
よく笑った

手に届くところに
じゃらじゃらと星が散らばっていて
ふたりして地球、にも似た
大きな円を宙に描いて
この中の星はみんな僕のだとか
わたしのだとか
そう、思えば僕ら、
出逢った頃はいつだって
こんな風だった

ねえ、この赤イ星の名前、知ってる?
すごく、甘い香りがする



   二  シークレット・トラック


アンタレスは
あなたの星です
あなたの心です

音なき赤
印象の赤
似合いの赤に
添える色もなく

すべてを染めたくて
すべて染まりたくて
痛めた胸に
舐めるふりで噛みついた

二度とは越えない
夜空を見上げ
あなたの中に濡れる
アンタレスに
耳を澄まして沈めば
海の音が
まだ聴こえるでしょうか

   *
  
静寂は、黒
紺青は、あい
アンタレスは、あなたの星
アンタレスは、あなたの心

あかき生命いのちの背景に
夜空の海はただ広い

二度とは越えぬ時の
結び付けたる約束の
指に滲むは、アンタレス
はかなきやいばがつけた星

アンタレスは
あなたの星です
あなたの心です
傷みに濡れて
なお歌うのですか
静寂に映える
紅き旋律



   三  アンタレス disk2


ふたりで歩いていたら
足元が少し不安定なことに気がつかないから
いつの間にか僕ら、
地球儀から夜空に滑落していた

星を敷いて眠る
昨日は白夜の夢を見た
君は星にまみれていて
僕も星にまみれていて
似合わないね、なんて言い合いながら
朝はいつ来るのだろうと
少しだけ心配になる

天地が逆だから
朝が怖いことだってあるのね、と
君が投げてよこした赤い星
僕はその名前を知っている
君の母さん、の次くらいに
僕が呼んだ名前

あかい、星 
すごく、甘い香りがする―――





自由詩 アンタレス  Copyright Rin K 2007-05-21 21:47:20
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