体温
朽木 裕
両の手で抱え込んだ頭が生きているかどうか
確かめるために むに、と頬をつまんでみる。
―反応なし
つまんだ指を瞼に移動させて白目にしてみる。
―反応なし
「生きてるよ、なぁ?」
強めに前髪を掴みあげて上を向かせ口付けひとつ。
すんなり開かれる瞳。
「狸寝入りなんて100年早ぇよ」
前髪掴んだ手はそのままで睨むとニッコリ破顔。
「やったぁキスしてくれた」
―え、論点そこですか
途端にペースを乱される、のはいつもの事で。
寝息も聞こえない、耳鳴りでレクイエム聞こえる部屋より余程いい。
かたわらで近しい人が眠るのは安心だけど不安。
子供のように熱を帯びた身体が
そのまま冷たくなりはしないかと。
こんな風に手をかたく繋いだまま
貴方が逝ってしまわぬかと。
想像だけで充分過ぎるほど狂える。
いらない思考をしている横顔に
不意におちてきたくちびる。
「なに考えてるの」
この人のすごいところは「それ」を知っているのに
敢えて問うところだ。
それでも私は答えない。
「別になにも」
まどろんだシーツの中、私はひとり狂う。
哀しみは液化して私の涙に成る。
かたわらの体温はまだあたたかい。
握っていた手に力が込められた気がした。