蒲公英(たんぽぽ)
まどろむ海月






  ? 夏の妖精


笑いながら
運ぶ風に
身を任せて
あなたは走り去ろうとしたが

 照りつける陽射し
 の中にではなく
 薄萌木色の林の奥に


手持ち無沙汰な
安堵の水際に
白い足をひたして
あなたは香りを
とらえようとしたけど

 微かに漂うものに
 葉はざわめき
 その密やかさの中に




目を閉じてごらん

 それは
 面影の蛍火のように
 ほのかに灯り

 あなたをやさしく包みながら
 誘(いざな)っていくのです




 まばゆい
 夏へ










  ? ある飛翔


あの安らぎの日
あなたは
春の野辺に来た
まばゆい光でした

天上の輝きを
地にもたらすような
すずやかな微笑みは
風に揺れて広がりました



あなたの華やぎが
すっかりひそめられたのは
続いた冷たい雨のためで
あったでしょうか



忙しさの中で自分を失っていた私が
寸暇の中で見出したのは
初夏であり
あなたの姿ではありませんでした

ひと足ひと足に
季節に透きとおる翠(みどり)を
確かめる私でしたが
あなたに出会えない寂しさに
胸は痛んでいました





 どのような日々を
 くぐりぬけて
 あなたはそんなにも
 変身したのでしょう



それはまちがいなく
あなたでした
あの華やかさをすっかり失い
やわらかな優しさだけを身にまとい
貧しく佇んでいたのは



その質素な姿の内に
隠されたほのかな光に
私がやっと気づいた時
あなたは風の中で
別れを告げたのですね

はかなく小さなものに
生のすべてを分散させて
あなたは遠く遥かな空へ
旅立ったのでした




 やがて再び
 天上の光を
 地にもたらす
 日のために















 



自由詩 蒲公英(たんぽぽ) Copyright まどろむ海月 2007-05-20 08:34:38
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小さな水たまり