夕日
水在らあらあ

Ser immortal es baladi;
menos el hombre, todas las criaturas lo son, pues ignoran la muerte;
lo divino, lo terrible, lo incomprensible es saberse mortal.

―Jorge Luis Borges



みんな 元気かな
世界はこんなに輝いて
俺はここで
草花を 見つめている

みんな 元気かな
今 陽が落ちるよ
俺はスペインの北の
星っていう名前の街の
高台の荒れ果てた教会の階段で
缶詰のレンズ豆食べてる

永遠になりたいのかな
永遠になりたいの
永遠になりたいよ
君のスプーンの中で
錆び付いて曲がっても

大きな三角形の
俺たちは一番下にいて
世界はぜんぜん人間のものじゃなくて
俺たちほど不自然で依存している存在はなくって

なあ 見ろよ あの山羊だって
牛だって馬だって 野うさぎだって ハゲタカだって
川の魚だって トカゲだって ミツバチたちだって
死ぬなんてことは考えてないんだ
なあ

だから彼らは不死で
不老不死で
俺たちだけが生き方とか
死に方とか
そんなこと気にして

杖をなくして
巡礼を歩くのに大事な杖をなくして
森の中で
ポピーが咲き乱れる麦畑に囲まれた森の中で
美しい木に出会った

(斬るよ
 痛いかな
 ごめんな
 名前を
 教えてくれ)

イタリア人の美しい女の人が
オリーブオイルを小瓶に入れて持ち歩いていた
みんなにくれるんだ
おいしかった サラダにかけて
俺も醤油持ってくればよかった
それをみんなにあげたかった

デンマーク人のイダ
君のポニーテールはどこに行くの
森林学者だって
一緒に森を歩いてたくさんのことを教えてくれた
人間の体のこと
現時点の文明と森の共存の不可能さについて

オーストリア人のターニャ
深夜タクシーの運転手
ロシアのマフィアを乗せる仕事の話をしてくれた
美しく聡明な彼女は何度も誘われたって

ドイツ人のビエゲット
あんなに優しいほほえみを
俺は見たことがない
村上春樹がすきだって
あの羊が出てくるのが
美術館で働いていて
俺が必死で学んた哲学
全部知ってた
フルッサーとか バフチンとか

なあ
芸術は
人と人の間にしかないのかな
俺達は永遠に永遠から離れて

花々が 美しいよ
真昼の麦畑に咲き誇る真紅のポピーは
それは
一つ一つが口付けで 歌で
真っ赤な帽子をかぶっていた君と同じで

許しの丘に咲き乱れる黄色は
それはおまえで
限りなく優しくて
限りなく責めて

川に入って
裸で川に入って
ものすごい数の羽虫が飛んでいる
川の水は五月の陽射しに凍るようで
俺はそこで泣いた
子供のときのように泣いた
死んだように
生きるように
乱雑で
素直な
水辺の木々に任せて
俺は泣いた


みんな 元気ですか
思うように生きたらいい
思うように生きたらいい
思うように生きたらいい

俺たちは永遠にはなれなくて
思うところはいつも的外れで
それでも何もかも忘れて
生きてゆくしかないのだから

ただ
足元には蟻が歩いて

ただ
石ころばかりの世界で
優しさだけ輝いて

ただ
夕日が今

砕け散るから










自由詩 夕日 Copyright 水在らあらあ 2007-05-20 05:36:36縦
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