ある詩人の漫遊記1
はじめ

 1ヶ月のうち15日まで寝ないで働いて後はずっと眠っている
 この社会の生き物達はみんなそうだ
 しかし中には真逆の生活をして悪さを働く者もいる
 その為に警察は悪さを働く者と同じような生活をしなければならない つまり15日から月の最後の日まで眠らずに働いて新しい月になると15日まで眠っているのだ
 これは王様の命令ではなくこの社会の生き物達の特別な習性である 月に1回 冬眠があると考えればよい 全てがそのサイクルに合わせている為 生産もサービスもメディアも15日を過ぎるとストップしてしまう 眠りについた文明の中で 悪と警察は1ヶ月の半分を戦い 月が変わると休戦に入る 生き物達は警察のお陰で天国のような休息を手に入れることができる 長い夢が悪に染まることがないのだ
 僕はひょんなことからこの社会で生活するようになった 僕は放浪の駆け出しの詩人でこの社会で生まれてきてからこれまでの通りに生活を始めることになった
 15日までは良かった みんなが起きていて 何も支障が無かったからである 周りを見ても目にくまを作って不眠不休で働いていて まるでロボットの社会に迷い込んだのかと思った 以前そのような社会に行ったことがあるからだ 僕は15日間ぶっ続けで働くのを見てとても自分にはできそうにないと思った
 しかし15日を過ぎると 生産もサービスもメディアも全てストップして 社会は眠りに就いてしまう 僕は前々から食料などを蓄えておいたので全く影響は無かったが それでも地下鉄が止まってしまったのは僕にとって痛手であったが 東京タワーから見る 東京タワーだけは1ヶ月中解放していた 東京の景色は 殺風景で 無音で 時々パトカーが悪さをする奴らを追いかける音が聞こえていたが 15日まで見せていた迫力が無いように感じられた 夜になると孤独な月の光では足りず暗黒に押し潰され寝息を立てていた 僕はそんな東京の夜を一人でふらふらと散歩することが楽しくてしょうがなかった 誰もいない繁華街 天に向かって眠っているビルの壁を軽くノックする ゴミ一つ落ちていない道路の真ん中を歩き スクランブル交差点で居眠りをしたりした 普段は沸かない親近感を感じるビル群 巨大デパート 星だけが僕を見つめている 東京は大都会なのに森や古墳が多いなと思った これが本来のあるべき姿なのだと感じた 大都会というレッテルを貼られて東京は疲れているのだなと思った
 完全なる静寂 耳鳴りの方が音が大きい 二酸化炭素が少ない東京は北海道のように空気がおいしかった 15日までには考えられなかった満天の空が東京を照らしているように見えた 月は孤独じゃなかったんだね 僕は他の場所よりも広い道路に寝転がって星座を描いてみた 星座達は地上に降りてきて僕と東京で鬼ごっこをした そしてみんなで東京タワーに昇って日の出を見た その感動から僕にはこの社会は向いていないなという結論に達した 僕は毎日規則正しい生活をしたい この社会に皮肉を言っているわけではないけれど こんな社会のサイクルを創った神様を少しだけ憎んだ 僕はその日の内に東京を離れ 飛行機に乗った 次行く国はコアラのような睡眠時間を沢山とる所がいいなと思った


自由詩 ある詩人の漫遊記1 Copyright はじめ 2007-05-20 04:01:31
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