影の町で
なかがわひろか

なんでも知っている影が
いい加減煩わしくなってきたので
殺すことにした

大きな岩を山から落として
思い切り影に叩きつけると
影は聞いたことのない音を立てて
死んだ

影の死体が発見されて
町の人たちは犯人探しに躍起になった

影のないやつを探せ
影のないやつを探せ

子どもから老人まで
町中の人がそれこそ目の色を変えて
影を殺した犯人を探した

この町で影殺しは
一級の重大犯罪だった

影のないやつを殺せ
影のないやつを殺せ

僕はただ身を潜めることしかできなかった
僕は昼間の世界から最も遠いところで
生きるしかなかった

腐臭漂う犯罪者や病人たちが集うスラムで
僕はとある盲の男に出会った
彼は僕にご飯を食べさせてくれて
町の人から僕をかくまってくれた

ある日男は町の噂で
影殺しがこのスラムにいるということを聞いた
男はすぐに僕が犯人だと気づいた
男は僕に自首を促した

僕は突然彼がとても憎くなって
彼が寝ている隙に
彼の影をこっそり盗んだ

何日かして
男は町の人に捕まった
男の言い分は何も聞かれず
男は火あぶりにされた

僕は町の人たちに混じって
男が焼かれていくのを見ていた
男の影は何度か男の元へ駆け寄ろうとしたが
僕は男の影を鎖でつないでいたから
影は黙って見ているしかなかった

(「影の町で」)



自由詩 影の町で Copyright なかがわひろか 2007-05-20 00:14:50
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