自転車ロボット
楢山孝介

小学生の頃に乗っていた青い自転車は
ボタン一つでロボットに変形した
サドルの裏側にボタンはあったのだけれど
変形すると股間に隠れてしまい
外からは押せなくなってしまう欠陥品
だから自転車に戻るのはロボットの気分次第
あまり賢くないので何を言っているか分からず
会話が通じ合うことはなかった

遊びの帰り道、一人でいるのが何だか寂しい時には
自転車を降りて変形させて、ロボットと並んで歩いた
猫に驚いて逃げるロボットを追いかけたり
メス(?)らしき綺麗な自転車を見つけると
追いかけようとするのを引き留めたりした
寂しい気分の日はとても多くて
自転車に乗る日よりロボットと歩く日の方が多かった
中学生にもなるとなんだか恥ずかしくなったので
自転車ロボットは物置に仕舞い込んで
変形しない新しい自転車を買ってもらった
寂しい日も少なくなっていた
新しい友達は猫に驚いたり
自転車を追いかけたりしなかった

それから幾年かが過ぎた頃
すっかり忘れていた自転車ロボットを
物置の整理中に見つけた
サドルの裏のボタンを押してみると
久し振りにロボットに変形しようと無理をして
ガタガタと ミシミシと
キシキシと カラカラと音を立てた
だけどロボットにはなれないで
部品を飛び散らせて壊れてしまった
飛び散ってもなおカタカタキシキシうるさかったが
相変わらず何を言っているのかわからなかった

伝わらないだろうと思いつつ
「さようなら、ありがとう」と言ってみると
自転車ロボットの飛び散った部品たちはそれっきり
うんともすんとも言わなくなった


自由詩 自転車ロボット Copyright 楢山孝介 2007-05-19 13:11:54
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