はじめ

 子供の頃は空が低くて狭かった
 僕が目が悪くてそう見えただけかもしれないが
 僕の記憶の中ではいつも同じ空が広がっている
 それは鉛色に曇っていて 今にも雨が降りそうで 胸とくっつきそうで圧迫していた
 僕の視線は同い年の子供や公園でもなく空に向いていた
 僕は見ると眼球の表面が熱くなる空を視線を下に降ろして引っ張っていた
 僕は無意識の内に空のことばっかり意識が向いていて他のことに関して上の空だった
 空に何か大切なものを感じていたらしい
 まだ子供だったから空洞のような孤独を認識できずに走り回っていたのだ
 僕は心の無い藁人形のように人から受ける傷を作っていった
 僕は子供だったから漠然とし過ぎたイメージを想像することができずにその熱い液状を心に秘めたまま眠れないストレスを感じた夜を過ごしていた
 僕の唯一の信頼するものは時間だけだった それだけが子供過ぎた僕をじっくりと熟成させていったのである しかし時計を見るのも針の音も怖くてその存在だけを好んでいた 今思うとそう思った
 そんな僕も時間と共に大きく成長し こうやって詩を書くようになった 今なら誰にも何も思われずに詩を書くことができるだろう あの閉鎖的で窮屈な世界は宇宙のように成長し広がった 僕はあの頃の世界が懐かしい 大人になって傷を沢山作ったせいか低くて狭い世界に無理矢理体を押し込んで心を癒したいという気持ちが強くなってこんな詩を書いているのだ 僕は毎日教会に通っている そして大理石の像にお祈りをしながら もうちょっとだけ空を小さくしてもらえないだろうかと念じる あの頃の空みたいに小さくならないでいいからちょっとだけ小さくして頂けないかと願うのだ 僕は心臓が弱く昔のように走り回れない そうすれば 僕は夏に旅行してあの頃の空に似たでも晴れた空を探して両手を広げて感じて 君と背景を重ね合わせることができる 君の背景は夕方で 太陽が沈んで空を変色させている しかしとても素敵な色だ 君は終始笑顔で 両手を広げて壮大な歌を唄っている 僕は歌っている君の手を引いてどこまでも心臓が痛み出すまで走り続ける それは太陽が完全に沈んだ時だ 子供の頃の低くて狭い空に向かって星空の下を駈け続ける そしていつか結んでいた手が溶けて僕は子供の頃の空に入り僕は一人になる 空を見上げて君の八重歯の欠片を握り締めて草むらに倒れて笑う 握り締めたものは砂となって消える 僕は子供の頃に見れなかった星空を見ている それは冷たくて吸い込まれそうで 僕の脳味噌を冷たくする 爽やかな風が通り過ぎて僕は眠気を覚える 僕はそこで深い眠りに堕ちていく
 そこで夢は終わり 僕は再び少し大きめの空の下で暮らし始める まるでブカブカのトレーナーを着ているようなぎこちなさで毎日の生活を送る 殺人など無い世界で淡々としたしかし少し憂鬱な日常 僕には少し息苦しい日々だ もうあの頃には戻れない諦念と追懐の思いが胸を焦がす あの頃の空は今の僕にとっては偉大で寛容だった


自由詩Copyright はじめ 2007-05-19 04:08:37
notebook Home 戻る