森ノ潮騒
服部 剛
空の曇った暗い日に
ざわめく森の木々に潜む
五月の怪しい緑の精は
幹から朧な顔を現し
無数の葉を天にひらく
わたしを囲む森に佇み
ベンチに腰かけると
唸る潮騒
風は頬を
吹き過ぎる
虚ろな目線でみつめる先に
森の小道は横切り
今日もゆるやかに人は流れる
古びた公衆便所の横に
一つの塔が立っており
からら からら
太陽色の風車は回る
何処からか
蝿の子供は飛んできて
右手の甲にとまるので
ふぅっ
息を吹きかけた
森の小道の傍らに
黒い帽子を被った街灯は
独り寂しく立っており
人気の無い夜に
帽子の下のましろい顔で
あたりを淡く
照らすだろう