暖冬の夕方の夢
はじめ
部屋はおでんと25年前に母が買ったサーモンのシルクのブラウスをアイロンがけした匂いで満ちていた 母や妹の衣類が僕の部屋のクローゼットに入っている 家が狭い為だ 明日妹が着るブラウスをクローゼットのでっぱりにかけている 下からおでんの匂いが漂ってきているようだ
僕はアイロンがけしたブラウスの熱で暖かくなったのかそれとも部屋のヒーターの熱で暖かくなったのか分からない部屋で気持ち良くなり布団に倒れた
うつ伏せに寝ていると心臓の鼓動がちくちくと痛い 僕は時計を見た 午後5時10分を少し過ぎたぐらいだ 僕はふぅーっと溜め息をついた 何もやることがない しかし瞼が重い このまま眠ってしまおうと思ったが星降る夢を見られるかどうか分からなかった
僕は昨日の夢を思い出した 飛行機の代わりに汽車が空を飛んでいて運転手はあまりにも凄い数の星が降っているので目をチカチカさせている それと流れ星にぶつからないかどうか心配しながら慎重に運転している
僕はいつの間にか眠りについていた そして夢を見た 昨日見た夢の続きで 僕は星色のプラットホームで汽車をずっと待っていた 片手には旅行鞄と地図 夜も更けて 肌寒い風が僕のコートの襟元を立たせる
今日も相変わらず空には星が多い 時々流星がゆっくり流れたり マッハで流れていく 僕はプラットホームの上の空を眺めて 乳白色の溜め息を吐く さっき閉店前の売店で瓶に入った牛乳を飲んだせいだ 微かにアイロンがけしたブラウスの焼けた匂いとおでんの匂いが漂ってくる と思ったらサーモンのシルクのブラウスを着た婦人とおでん屋がいた 僕はその婦人に挨拶するとごきげんよう と婦人は返してくれた 他の店屋は全部閉まっているのにおでん屋だけはまだ店を開いていた 僕はまだ汽車も来そうにありませんし 一緒におでんでもいかがですか? と尋ねてみた すると婦人はいいですよご一緒しましょうと返してくれた
婦人とおでんを食べながら汽車を待っていた僕はついつい酒までも飲んでしまった 自分で運転するわけでもないしいいだろうと思っていた 婦人はブラウスの上に高級そうな毛皮のコートを着ていた バランスがあまりいいいとは思えなかった 話を聞けば婦人はお金持ちの貴婦人らしかった おでん屋の兎のおじさんはもうすぐ来る頃だよ と言っておまけに僕と婦人に卵を一個ずつくれた
あつあつの卵を頬張りながら僕は貴婦人と汽車がやって来るのを待った すると空の向こうからシュシュシュシュシュシュシュ…ポー!!! と音がして目を懲らしてみると流星色の汽車が星屑を煙突から噴き出しライトを灯してやって来た レールに降りると僅かに走り やがて止まるとプシュー!!! と星屑を車輪の間から出して完全に止まると乗っていた車掌さん達が入口のドアを一つずつ開けていった 僕と貴婦人は汽車に乗り込んで向かい合わせに座った 席に座ると僕はやけに落ち着いて だんだん眠たくなって来た 次に気が付いた時には夢から醒めていた 時刻を見ると午後7時35分を過ぎた頃だった 明かりのつけていない僕の部屋は暗くブラウスがクローゼットにぼんやりと浮かんでいた 僕は空腹を感じおでんの強い匂いのする一階へと降りていった 今日眠る時にはあの夢の続きが見られたらいいな