器の子
木立 悟


ひとりの子が
ひとつの楽器の生まれる様を見ている
作るものも
奏でるものも去ったあとで
子は楽器に愛しげに触れる
おずおずと うずくように
楽器は
花になる



新しい言葉
新しい音
その新しさが終わるとき
小さな火が 小さな光が
まわりながら落ちてくる
等しさや均しさのなかにではなく
ただ涙する子のかたよりのなかに
ただ手のひらのかたよりのなかに



変わりつづけ 混じりあい
限りある熱に落ちてゆき
生まれるひとつの輪の波が
ひとつの星をさざめかせてゆく
ひとりの子が持つかがやく器
涙する子の手のひらにある
不器用な笑みにかがやく器



花と花の間にひらく
雪の残る山にむけて
自らを花を奏でる子
触れる笑み うたう笑み 星の波
火のように符のように輪のように
花の器は鳴りひびく
器の花は鳴りひびく



自由詩 器の子 Copyright 木立 悟 2004-05-07 08:33:17
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