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初夏の山は
いいにおいをしたものを
たくさん体の中に詰めて
まるで女のように圧倒的な姿で
眼の前に立ちはだかってくる
たまに野良仕事をしている百姓が
山に見惚れていることがあるが
あれは欲情しているのだろうか

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わたしの生家は山のふもとにあって
四方を水田に囲まれている
その為に
陸にあるのに孤島のように見える
ちょうど今頃の時期になると
水田には水が入り
休日に青空が植えられるので
晴れた日には空も周囲もみんな青くなる
まるで浮かんでいるみたいな気持ちである

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夜になると水田からは
蛙の泣く声がきこえる

初夏に泣く蛙はご先祖様の生まれ変わりで
帰りたい
帰りたい
と泣いているんだよ

と教えてくれたのは祖母だったろうか
それを聞いて以来
あまりに蛙が泣く夜は
切ないような泣きたいような気持ちになってしまう

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初夏に生い茂る草は
なぜかみんな?の形をしている
ヴィクトリーの?だろうか
一体何に勝ったのだろう
それはわたしにはわからないが
夕暮れに一斉にゆれる?の群れは
確かにこの世で
もっとも強く美しいものに見える

?の群れが
ざざざ
とゆれる音は
まるで激しい夕立か
さびしいときの心臓の音のようだ

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子供が幾人も駆けてきて
てんでに飛び上がりながら
夕空を千切って食べはじめた
ここらの子供の頬がいつも
滑稽なくらい赤くてぴかぴかしているのは
こうして毎日
夕空を食べている為であろう

飛び上がる子供たちは
夕日を背に
骨が透けて見えるような儚さで笑っている

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初夏はさびしい
くちいっぱいに広がる風は
薄荷の味がして

初夏はさびしい