遠方の死
楢山孝介
父の古くからの友人Kさんが亡くなった
現場仕事で足を滑らせて
屋根から落ちてしまったのだという
一人で作業をしていたので発見が遅れたのだとか
うちからは遠く離れた岡山県の端の方での出来事
中学生になりたての頃
Kさんの別荘に家族で泊まりに行ったことがある
別荘とはいっても
都市部から離れたところにあるだけのごく普通の家
遊ぶところも何もなく、子供には退屈だった
買っていった週刊少年マガジンばかりを
貴重な時間を費やして繰り返し読んでいた
その号の『BOYS BE…』では田舎に帰省した少年が
従妹と淡い恋に落ちていた
夜には天井からムカデが落ちてきた
父は古い仲間に
電話でKさんの死を報せてまわっている
四方山話に発展して笑い声も聞こえてきたりする
驚きの方が強くて
悲しみ方がよく分からないようでもある
昔のアルバムなど持ち出してきて
Kさんや父や母の
在りし日の姿を僕に見せてきたりする
髪を伸ばしていた頃の腹の出ていない父がいる
仲間内で一番背の高い母がいる
Kさんはこれだと父は指差すが
次の瞬間にはもう僕には見分けがつかなくなってしまう
Kさんの声を思い出す
数年前、家に電話がかかってきた時
受話器を取った僕を父だと勘違いして
すぐに用件を話し始めた
違います息子ですと言うと
「声似とるなあ」と驚いていた
そんなKさんの声は
もう二度と聞くことが出来ない
そんなことくらいしか実感出来ないでいる