葉月葉
氷水蒸流

落ちていた
ふちのない穴のなかを
空は役割を捨てたらしい
光はボレロに合わせてゆるゆる回り
白い猿たちは「  」の頭を転がして遊んでいる
飽きてしまうと時計の針を集め出した

君の手のひらに君がいて
僕の声は冬の風と入れ換わった
シアー シアー
攪拌するけやきの葉
葉脈をなぞって銀の笛が鳴り
腕に沿って蛇行する蔓草の上
盲いた死刑宣告たちはよろめき 
ポロポロとこぼれ落ちる
ああ 勘違いをしている

花がひらくと
人のかたちはほどけた

あいだがある おぼろげな指と指に
すべての星があり まだ幼い
君の名を呼ぶつもりで 回転する神学的ダジャレ
無数の結び目は夢精
い あ
遠い かすかな疼き

血の味を忘れている
白紙が輪唱している
終わらない指折りと指輪
敷き詰められた0のドミノ
累々 臍の尾を切る音は星々に木霊する

空気に植えられた人々
無数のシダは常温の肉を泳ぎ
無数の寄生菌は常温のシダを泳ぐ
指先に追いつめられた言葉たち
頭文字はふゆうり
遺言は菌糸を吐き樹形図を編み呼吸を霧散する

掴むものは何もない
時に傷をつける
崩れ落ちるのはいつも砂城
世界が帯びた青には音がない
交換する
血液と銀河を
眼球と天球を

白い影

戯れる免疫の狭間で
巨大な眼球が映る黒い研ぎ石の上で
分け与える
風に名を
とめどなく
剥き出しの君に
水の香りがする罵倒を流し込んでいる
最後の点滴を打つように
とまどう
指先を結び 指先と子午線を結び
かすかな輪郭線は発散する


自由詩 葉月葉 Copyright 氷水蒸流 2007-05-17 10:59:11
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