春へGO!
はじめ
外した眼鏡でランボー全詩集を退ける
シャワーを浴びた後髪を乾かさないでベッドに横になる
ボディーソープとシャンプーの香りが順番に香ってくる
おでこに滴が落ちて眉毛の上をカーブして流れていく
僕は大の字になり 天井を見上げて溜め息をつく
ボロボロになったランボー全詩集 カバーを失ってふにゃふにゃになっている
そういえばもう春がそこまでやって来ている 染井吉野の花弁がひらひらと窓を開けた僕の部屋へと入ってくる 春からの便りだ
僕はベッドを降りて 眼鏡をかけ 窓際の机に落ちた花弁を表と裏を丹念に見てこくりと頷き理解するとパソコンに向かい 詩を書いた 春の思わずにこやかになってしまう匂いが漂ってきて僕は胸一杯に吸って心の中が春一色に染まり桃色の息を吐く キーボードを叩くカタカタカタ…という音がいい 喉が渇いたので下に降りて烏龍茶を飲んでまたついで持ってくる
君はもうやって来ただろうか 君は春の到来とともにやって来る 本格的な春が近づくとなんだか忙しなくなる 僕は春を想像して とてもほのぼのとした澄んだ気持ちになる 髪の毛もさっきとは異なる春と晩冬の混ざった水気の帯びた土らしい匂いの風で渇いてようやく春がやって来たことを知る
いつの間にか君に宛てた詩になっている それは淡泊な詩で かなり長いものだ いつ終わらせようかそれについて悩んでいる 僕は春の陽気が服全体に染み込み 陽が両手をこちょこちょとくすぐるのでクスクスと笑う 君の悪戯だろうか? 僕は陽かざしを作って街並みを眺める 陽気が湯気立って空に昇っていっているように見え 車の道路を走る音が心地良く聞こえる 染井吉野の花弁の羽の蝶々が何処からともなくやって来て デスクトップの角に止まって羽を開いたり閉じたりしながら呼吸しているように休んでいた 僕は無意識に呼吸をしていたが 蝶々の鱗粉が気管の中へ入るのではないかと思って慎重に呼吸した
アスファルトもだいぶ暖まってきたようで 僕は外に出てみたくなった 僕が席を立つと花弁の蝶々はぱたぱたぱた…と窓の外へ飛んで行って香しい桜の匂いを僅かに残していった 僕はクローゼットから上着のジャンパーを取って自転車の鍵を持って外に出た 錠を外して自転車に跨ると 3種類の煉瓦で造られた歩道を漕いで サイクリングコースに入った
全長4?もあるサイクリングコース兼ジョギングコースを進んでいくと林道へ続いていた 僕は両手を離し春の木漏れ日を胸一杯に浴びた 葉に埋め尽くされた暗い上をずっと眺めていると 突然青々とした空が雲の隙間から覗いた
やがて林道を抜けると辺りが明るくなって桜並木に出た キラリと桃色に輝く桜並木は果てしなくどこまでも続いているようだった 僕は休憩所で自転車を降り 思いっ切り伸びをした 今年一番の桜色の風が僕の体を通り抜けていった