たまごを溶く
なまねこ

まっすぐにそそり立った夜から
はねあがるようにおきた明け方
まだ覚めきっていない体の白身を残して
黄身だけが流れだし
キッチンの冷蔵庫におさまってしまう

白身は悠長に時間をかけておきあがり
つまずきながら冷蔵庫へ向かう
外は晴れているが
明け方の声はくもったように聞こえる
黄身がいないと
そこここがにぶくなってしまう

冬の岩盤のようなとびらをあけると
ドアポケットにはたまごが四つ
よく手入れされたクローン羊みたいに並んでいる
にぎってみても
どれもきっちりと冷えていて
殻は漂白したように白い
黄身はどこだろう?

朝のつめたい白身は
表情にうすいまま
ステンレスのボウルを出して
たまごを割る
もちろん四つとも割る

弾性の黄身が四つ
明け方のボウルの中で
南国の海のかぶとがにみたいに並んでいる
キッチンの出窓から
とろりとあわい光が溶け出してくる
ボウルの中に
確かな黄身を感じる
朝は近い
もうすぐ
白身を切れば
もうすぐだ
黄身を溶いてしまえば

しずかな銀のフォークをボウルに差しいれると
出窓にもれる明け方の光から
ためらいのない
はじけるような朝がはじまる


自由詩 たまごを溶く Copyright なまねこ 2007-05-16 18:31:48
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