[扇風機にコエ]
あおば
2007/05/16
八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を
中学を退学して古本屋に丁稚奉公して年期が降りて
小さなお店を持ちたいと父に借金を申し込みに来た
万葉集を鞄に入れた叔父さんが質屋の角を掠めるように
歩いてくるのを思い出す
駒込のずる賢い伯父さんもやって来て
お父さんを質問攻めにして
困らせて
ごちゃごちゃうるさい夏休み
退屈をもてあます
秋の七草
藤袴が色づいたので
そろそろ
宿題を終えなくちゃと
慌てているのに
妹と姉と母の連合軍が
野の花を摘み取りながら
岡を下って押し寄せるので
扇風機を逆さまにして
電気を起こそうとしてみたけれど
交流電気の虚しさに
不正な磁束が失われ
声にもならないコエを出す
ナムアミダブツとコエを出す
富士の御山に扇風機
風が無いのに回ります
絵に描いた扇風機
カラカラと回ります
カラカラと回る音
回る声に回れ右
コエ聴くときぞ秋は哀しき
不確かに
コオロギのようなコエを出す
扇風機扇風機麗しのコエを出せ
扇風機のあるところ
扇風機のいるところ
マイマイツブリが捕まって
井戸の真ん中逆さ吊り
見張りの狩人眠くなる
コオロギ鳴いたら眠くなる
真夜中にマイマイツブリが逃げてゆく
藤袴の妹たちが声清らかに
声清らかに密やかに歌うのは
マイマイツブリの恋の歌
八重垣作れその八重垣を