キッシュ
なまねこ

部屋ごと寝入りかけた夜中に
開いた窓から鉄の鳥がはいってきたことがある
鳥は遅刻ぎりぎりの
学生みたいに飛び込んできて
その暴力的な勢いと対照的な声で鳴いた
鳥はアルミホイルを
手の中で丸めるような声で鳴いた
くしゃ、くしゃ
僕は枕元のメモ用紙をこすりあわせて
それらしい音を出した

うまく伝わったのだろうか
そもそも僕にとってのそれは
ただの擦過音でしかないから
メモ用紙は鳥に
何かを伝えてくれたのだろうか
と言うのが正しいのだろう
寝入りかけた当の僕には
鳥に伝えたいことなんてなかったけれど
鉄の鳥は注意深そうな瞳でこちらを向いて
すばやく首をかしげてみせる

どこかからパンとシチューのにおいがしていた
窓は開いたままだ
そうか
何かのキッシュかもしれない
それだけ考えるあいだに
鳥は窓に飛び込んで消えてしまっていた

ミルクと小麦のにおいのする窓を閉め
僕はもう一度
枕に頭をおとした
枕から風があふれだして
枕もとの
真っ白なメモ用紙がまた鳴った
くしゃ、くしゃ
薬のにおいがしみこんだ音だ
鳥が行ってしまった理由が
どうしてだかわかるような気がすると
メモ用紙を束ね
また鳴き出さないように机にしまいながら思った

枕がまた少しふくらみながら
キッシュのにおいを吸い込むのが見えた
パイ生地をこねる夢を見るかもしれない


自由詩 キッシュ Copyright なまねこ 2007-05-16 00:05:41
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