炒めた玉ねぎは涙の味がするのだ
たもつ

私はもう涙しません
何故なら、そう決めたからです
だからもう涙しないのです

地球温暖化が進んでいるといわれている昨今
これからの降雨量も心配でしょう?
だから貴重な水資源を失いたくないのです
ついでにその他のタンパク質や脂質やミネラルも

だから私は涙しないのです

だから私は涙しないのですが泣くことはします
何故なら涙しなくても泣くことはできるから

場末のキャバレーでウサギの耳が生えたお姉さんの
貧弱な乳房を揉みながら

命乞いする兵士の眉間に銃を突きつけ
唇の端にくそったれな薄ら笑いを浮かべながら

歯の間につまったキャベツの切れ端を
舌でとろうとこんなふうに顔を歪めながらでも

泣くことは可能だからです

だから涙はしないのです

そう決めたのですから
ここでお別れしたとしても涙することはないのです

その夜、病気の妻に代わって台所に立った私は
玉ねぎを刻みながら不覚にもさめざめと涙しました
切れない包丁で細胞をつぶし
硫化アリルをたくさん出してしまったからです



自由詩 炒めた玉ねぎは涙の味がするのだ Copyright たもつ 2003-08-18 13:15:44
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