ひかりかがやく涎の海をこえて
大覚アキラ

真昼の沖に浮かべた
大きな蓮の葉のうえで
みんなが寄り添って眠る

母のない子も
子のない母も
夢を見ることのない
安らかな眠りの底で
みんなが寄り添いあって眠る

涙よりもやさしく
汗よりもすずやかで
血よりもうつくしい
この
ひかりかがやく涎の海


 世界中の子どもたちの
 やわらかな耳の奥の奥にある
 貝殻のかたちをした器官から
 子守唄の断片を拾い集めて
 それを繋ぎあわせて
 ひとつの曲をつくりました

 聴いたことがないのに
 誰もが知っているような
 誰も知らないのに
 聴いたことがあるような
 そんな曲を


やわらかな旋律が
はるか遠くから
海鳴りのように静かに響き
潮のにおいのする空気を震わせると
涎の海はいっそう強くかがやきながら
白く白くひかる

いちめんの白
見たことのない白
ひかりかがやく白
まぶしい
とてもまぶしい
まぶしさに目を瞑る
眠りの中でもう一度深く目を瞑る


 お母さん
 ごめんなさい

 ぼくはきっと
 お母さんが死んでも
 涙を流さないと思います

 お母さん

 お母さん

 この曲が
 ひかりかがやく涎の海をこえて
 お母さんのもとにも
 届きますように


自由詩 ひかりかがやく涎の海をこえて Copyright 大覚アキラ 2007-05-15 18:10:00
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