ロストジェネレーション2007
スリーピィ・タロウ

 目が覚めたときには翌日の8時を回っていた
 夏祭りもバーゲンも市長選挙も
 サッカーの試合も公開処刑もみんな終わっていた
 廃ビル色の風の中で日の光は今までどおり穏やかで、
 壊れた目覚ましを撫でた。
 これから来る夜に何の望みも持てないことははっきり分かっていた






   【1】

 電車の中で、もう若くないのだからと
 14歳に15歳が説教をしている
 上の兄は仕事もせずにふらふら
 彼にはアスファルトでも君には生まれた土だろう

    ◇

 逃避する家が住み辛くなったのでネットカフェで食い扶持を稼いだ

 閉鎖できないしがらみを抱えたBBSの運営代行を広告し、
 集まった掲示板全部で
 中傷か個人情報晒しか不毛な論争で「祭り」を起こしたら、
 広告代がガバガバ入って来て、3ヶ月で家を出た
 それで中学時代の友人佐藤の家の株を買った
 380万円ほど投資したら筆頭株主になった
 家族会議に出席して家長就任の議案をかけて可決されたので
 家の市場価値を上げるために、
 リビングの間取りの大幅な刷新、枯れかかったガーデニングの全面撤去、
 飼い猫ごろ八のリストラ、ファーストフードの導入による食事の効率化、
 次男ひとしの学習塾通いのために野球部退部など、
 大胆な構造改革を実施した
 おかげで佐藤家株の時価総額は鰻上り

 天井を打ったところで、会社をやめたばかりの山本に高値で売却した
 戻りたいのは温かみではなく遮断が欲しいから


 こんなつまらない真実なんて何一つ知りたくなかったから







   【2】

 手がきれいね
 あなた、というには関係の遠すぎる人
 ふられた相手の数より、言えないまま想いが絶えた数の方がずっと多い
 節も血管の隆起も無い甲 
 柔らかいままの指
 何してもええから、後ろを向かず生きなさいと10歳の僕に言った母が
 なんか面白いこと無いか面白い話ないのかと
 土気色の貌で僕に尋ねる
 仕事を休んでいる間に、頬は彫像のように固く削がれた
 手首だけが似ている
 柔らかい俺の指
 どこで育て間違ったんかなぁ
 (どこで育ち間違ったんやろうなぁ)
 何世紀待ってもドラえもんは来ない
 だがまだ少し待っている

    ◇

 ゲップ色の偽サンタに
 リゲインとアロマテラピーとコンドームの中から
 どれか一つを選べと言われて、
 全部ちょっとずつ千切ってゲームボーイを作った
 20年早ければ汽車の切符にしただろうか
 「小6までな、信じててん。
  親父が気張って英語の手紙とか作るから、さぁ」

    ◇

 僕らは喪失を知る最後の世代になった、と言うと
 新聞の切抜きから死人が顔だけ出して笑う
 「俺達は70年前にそうやって失った。
  お前の子供達も同じことを言うだろうよ」


 ロストジェネレーション。兄弟達よ。


自由詩 ロストジェネレーション2007 Copyright スリーピィ・タロウ 2007-05-14 01:17:05
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