ある親友
まどろむ海月




  ? 彼



味噌っかすの子でありました

家での安らぎの場所は押入れの暗闇
たいていそこで うつらうつらと

青空と雲
黄昏の風と 夕焼け
を眺めているのがいちばん好き

 少年時代
 その寂しさこそが
 自分自身でもあったような

家庭内の異邦人
親兄弟と心が通じない

ほしかったのは真の親友のみ
身を切る孤独を
彷徨い 彷徨い
その蒼さの窮みの思春期
ついに得られた友

彼は肉親以上に大切な存在になりました


 故郷の 林や里山 川や湖の畔
 日々 時を忘れて散策し
 語り来たり 語り行き
 語りきり 語り尽くし
 ついに 言葉とは
 語る必要がなくなるために
 あるのを 知った


 何も話さないでいられる
 無窮の安心・・・
 冬も春も夏も秋も

 私たちは
 透明な空気そのものとなって
 澄みきった季節のなかを
 歩き
 さまよい
 ただよった



その数年間の交友のもたらした
寂静の安らぎこそ
その後の私のすべてを支える
根源となったのでした





              
          

  ? 公孫樹(いちょう)



古寺の屋根を ながめながら
青空に屹立する 金色の樹にもたれ
確実にやって来る君を
待つ 時 を愉しむ

樹に群がりふるえる 黄金の鳥たち

ふいに君は姿を現す
一陣の強風に
鳥たちは舞いたち 舞い上がる
樹から 地から 渦となり
金のすじとなって 蒼空の彼方へ

思わず空の果てを見つめる
たがいの姿に

 僕たちは
 微笑む








  ? ある親友


暗闇の狭間を
久しく辿って
赤茶けた岩山の
荒野に出たときも

シレーヌのような
砂嵐が襲う
遺跡の都を
過ぎたときも

灼熱の
火炎の中を
翼を燃やしながら
くぐり抜けたときも

凍てつく孤独とともに
蒼い氷山の内に
みじめに閉じ込められていたときも


いつもいつも
僕は君への手紙を書き続けていたよ

いつもいつも
僕は君への手紙を書き続けていたよ


決して投函されることのなかったそれら

君への手紙を書き続けること
そしてそれを自分の中に封じ続けること
それがぼくを僕の崩壊から守ってくれた



ぼくの中のポストは
小さなブラックホールだ
でもそれは宇宙のどこかで
微かなホワイトホールとなって
きっと輝きを吐き出し続けていると
いつもぼくは想像する



こんなに永い間
親友の君に会わないでも
耐えていられるのは

こんな理由からだよ







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自由詩 ある親友 Copyright まどろむ海月 2007-05-13 08:55:06
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