不細工なカーネーション
快晴
祖父は戦争で韓国から強制徴用され
月も眠る夜に専制君主の目を盗み
田舎の山奥の炭鉱を逃げ出した
今は亡き祖父の苦労は想像することも出来ないが
ある頃に祖国の弟にトラクターを贈ったらしい
貧しかった家の母は高校を卒業してすぐ
毎日ラーメン屋で汗水流して働いた
器量はとても良かったらしいが
生活するためには遊ぶ暇すら無かった
いつの日か何度目かの恋に落ち
仕事を辞めてこの土地に引っ越してきた
ある冬の晴れた日に生まれた私は
何ともめでたい名前を与えられた
小さな頃の記憶はもうあまり無い
幼稚園の送迎バス乗り場で毎朝泣いた
折り紙で作った不細工なカーネーションは
いつまでも自慢げに玄関に飾られていた
そのうち私も当たり前に反抗期を迎え
母のことも避け見えるもの全てを憎んだ
ついに手をあげてしまった時
母は台所の隅っこで小さく肩を震わせていた
私は握りこぶしで自分の頭を殴った
他人の愛し方を知らなかった私は
いつも誰かの心を引き裂き続けた
そんな私のシャツのシワを伸ばす母の背中から
私は目を逸らすことが出来なかった
「産んでくれてありがとう」と素直にはまだ言えないけれど
いつか母が元気なうちにそれだけは伝えよう
ただ一つだけ教えさせてもらうなら
覚えたての絵文字の使い方が少し変だよ