アンダンテ
霜天

ポイントは、スロウ

誰かが間違ったとか、テレビが吐き出しているけれど
それが本当かどうかなんて誰にも、分からなくて
無駄なものを省いてきた、そんなつもりの生き方だけれど
結局何も捨て切れては、いなかった

校舎の四階、最上階
東を向いた白い壁の一列の、北側の端
広い、広い部屋の隅に並べられた個室
窓から見える空は狭くて、どこまでも広がっていきそうで
両手と、両足と
声を伸ばせば突き破っていけそうな部屋の中で
弾くことも出来ない言葉を弾いていた


  *


思い出せる言葉には限りがあるけれど
僕の中では、僕の呼吸が出来た
こんな大人になりました、と言えば
笑ってくれる人はどれくらいいるだろう、とか

容量は、人それぞれで
ポケットに手を入れっぱなしで歩く僕らは猫背だった
鳥よりも花になりたいと願う人
飛び出せるとは思えなかった
日向に眠る花が枯れる頃には
誰もそこにはいなかった


  *


ゆっくりと進化は始まって
ゆるやかに止まっていく
いつも誰も気付かずに終わって
気付くものでもないのかもしれない

間違えた言葉を吐き出す頃には
道は静かに曲がり始めて
手のひらにはしみのようなものが残ってしまった
ただ回るだけの時計の針を、少し自由にしてやっても
またあの回転の中に戻っていく
今も、遠くも
白い壁のあの窓は狭いままだし
僕の手はやっぱり、飛び出せそうにない


ポイントは、スロウ
転換点に於いて出せる答えは




スロウ
スロウ
スロウに速く
僕らはあの頃を追い抜いていく
結局、捨てるものなどそこにはなくても

歩くように、速く


自由詩 アンダンテ Copyright 霜天 2007-05-13 02:34:13
notebook Home 戻る