『ふたりごと』を聴いて思い出すいつかの記憶と夢
はじめ

 RADWIMPSの『ふたりごと』を聴きながら空想していると現実感が無くなり浮遊している気分になる
 部屋は太陽に飲み込まれたように真っ暗だ
 無限の時を刻んでいるように聞こえる置き時計は僕達には有限の時間を刻んでいる
 ワンリピートして聴く 祝福の時がずっと続く
 置き時計の電池を抜いて息の根を止めて 静寂に混じった自己の雑音に耳を傾ける
 静寂は何処まで行っても静寂だ 暗闇を進み続けて暗闇を進み続けても決して行き止まりがあるわけではない 僕がその先を想像できないだけなのだが
 見慣れた自分の部屋 僕は煙草の煙を吐く 缶ビールで煙を流し込んで闇に溶けるそれをじっと見つめる
 僕は何かをここで忘れてしまったような気がする 浮遊感が増す RADWIMPSの『ふたりごと』が聞こえてくるのはあの向こうのビルからだ
 小説をそろそろ書かないといけないと思う 誰が待っているわけではないがこの世に遺す為にいつか書かないといけないものだ
 静寂の上に浮遊する 僕はなぜか悲しくなって涙を流す MDコンポに何故か視線が行く その中には何か入っている気がする
 僕は『ふたりごと』を今度の唯一の友人の結婚式で歌うつもりだ
 式場は故郷の国一長い川の畔に立つ お城のような場所だ
 その川に架かる街のシンボルの鉄橋から夕暮れ時に見る光景はとても美しい 黄金色に輝く大河と流れる水音が絶妙にマッチして車の流れなんてちっぽけに見える 僕はよく手すりによしかかって夜になるまでその光景を眺めていた 夜は星が大河に沈むと辺りは真っ暗になる 人々は大騒ぎをする そんな時はちょっとしたお祭り気分で 僕はニコニコしながら家に帰ったものだ
 回想を終えると僕は置き時計を見て可哀想になって電池を入れ直した 置き時計は電池を抜いた時間から正確に動き出した 今何時か全く分からない 僕は世界の進む早さに遅れているような気がした 正確に時を進む布団 遅れている僕と合わせてくれる『ふたりごと』 遅れているのにも関わらず平然と時を打つ置き時計 僕は置き時計の時間に自分を合わせようとした それは不思議な感覚だった 暗闇も静寂も慣れて 僕は何時間も先に進んでいく世界のことを想った しかしこんな真夜中に世界に時を進まれていても別にデメリットは無かった しかし現在本当の時刻は何時なのだろう? という疑問はずっと頭の片隅に消化されずに残っていた
 何処からか涼しい風が部屋の中へ入ってきた 僕は眠気を誘われた 布団に入って ビルから聞こえる歌にじっと耳を澄ませていた いつしか眠りがやって来た 夢の中で 僕は夜の砂嵐の激しい砂漠に立っていた そこであの国一番の大河と結婚式場を砂で作っていた子供の頃の僕に出会った 僕は近くのオアシスから水を汲んできて 溝を掘った大河に流した 子供の頃の僕は笑い 今の僕もうっすらと笑った 朝が来ようとしていた


自由詩 『ふたりごと』を聴いて思い出すいつかの記憶と夢 Copyright はじめ 2007-05-12 05:24:26
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