道中脱落
秋也

「おい、何泣いてんだよ、おい、おい」
「もう、無理だ」
「何が」
「一緒に歩けない、ごめん」
「ふざけんな、ちょっと疲れただけだろ、休め」
「違う」
「何が」
「だってさ、まだまだ道続いているんだぜ」
「だから、最後まで一緒に歩くんだろ」
「先見えないけど、見えるんだよ」
「は、意味わかんない、また始まった」
「ごめん、ほんとごめん、手離していいかな」
「マジで言ってんの、せっかくここまで二人で歩いてきたんだよ、景色だって最高だし、楽しいじゃん、考え直せよ」
「俺はここまでだわ、君と途方もない見えない先があること見えてよかった」
「で、どうするの引き返すの、それともここら辺一人で当分うろつくの」
「わかんない」
「最後にお願いする」
「え、何」
「僕ともう少し手繋いで、一緒に歩いてくれませんか、お願いします」
「ごめん、ほんとごめん、ほんと」
「ああ、もうわかった、とりあえず泣くのやめな、治まるまでは一緒にいるから、それぐらいいいでしょ」
「ありがとう」
雲が流れる、道先が霞む、蜃気楼
「ねえ、なんで僕と歩きたかったの」
「すごい景色みれると思ったから」
「みれたじゃん、これからも終わりまでずっと一緒にみれるんだよ」
「でも、俺はここまでなんだ、そういうのわかるんだ」
「わかった、泣きやんだね、僕は悪いけど先いく、いった先で他のだれかと手繋いで歩くかもしれない」
「いいよ大丈夫、ほんとごめん」
「もう謝るな、ここまでありがとう、ここで終わることは正直ショックだけど、お前と歩けて嬉しかった」
「俺も、君と」
「またな、手離すよ、絶対またどこかでまたな」
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめ」
「謝るな、泣くな、こっちだってさ、うう」
「ありがとう、ずっと大好き」
風が止み
あの子は見えなくなり
俺は残る
ずいぶん前からこうなることわかっていた
申し訳ないけど
避けられないことだった
ずっと、あの子が握っていてくれた手が
今は寂しく冷えはじめる
遠くまで歩いた
それでも、先がある
先を歩いている人たちがいる
先で迷っている人たちがいる
先で生き倒れている人たちがいる
俺はここまで
ここから先は歩いてはいけない
それは禁であり
破ることは不可能
夕焼けが終わりを迎える
あの子と今日みた最後の夕日
甘かった
ひたすら甘かった
もう二度はない夕焼け
おやすみ
氷漬けにしてどこかにしまう
夕日が遥か先で砂糖のように溶ける
俺たちではここまでだった
それが悲しくもあり、嬉しくもある
「それ以上でもそれ以下でもない」
二人が好きだった台詞
今は一人で思い
道中脱落する


散文(批評随筆小説等) 道中脱落 Copyright 秋也 2007-05-12 03:27:35
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