「 贈りもの 」
服部 剛
日中はデイサービスに集まり
賑わっていたお年寄りも
それぞれの家で眠りにつく頃
明かりの消えた広い部屋には
残って日誌を書くぼくひとり
静まり返った夜の老人ホーム
天井下に取り付けられた
スピーカーから静かに響く
フォークシンガーの弾き語り
「 いくつもの橋を渡ってきた
深くに静かに眠る
遠い昔の唄が聞こえる 」
さっきまで隣に座っていた上司は
持ってきたCDの歌詩カードを開き
一篇の詩を口ずさんでいった
「 生き急ぐ人の流れの中で
俺は俺
こだわりは捨てないさ
それでいいんだよ 」
( 使いものにならなかった
( あの頃の僕が
( 悔し涙を流した夜
( ラジオから流れる
( ダンボールに捨てられた犬を
( 通りがかりの人が拾う物語に
( 耳を澄ましていた
今日は8年目の就職記念日
スタンドの灯りに照らされた
机の上にはCDが1枚
あの頃捨て犬だった僕を
拾ってくれた上司からの贈りもの
ジャケット写真には
肩を並べてほほえむ
フォークシンガーと
ギタリスト
ぼくが座る
背後の壁に掛けられた
古時計の音
夕焼け空から降ってくる
遠い昔の唄
静まり返った老人ホームで
ひとり 想いを 噛みしめる
* この詩は加川良の唄
「ビールストリート」・「ウィスキー色の街で」の
歌詞を参考に書きました。