廃墟島へ
月夜野

  翻る黒髪 目蓋打つ白き飛沫
  おののく好奇が船上を支配し
  まさに航跡に雪崩落ちようとするとき
  はるか前方
  絶えまなく湧き立つ海の回廊から
  ひとつの島影がせり上がる
  内没と狂気の閃光を孕み
  自足する世界の辺縁で
  なお朽ちながら生きている都市の
  鬱々として定まらぬ藍鉄のこし

      
  ひしめく鉄骨の怜悧な骨組み
  あるいは望楼の下の石壁の肌理きめ
  穿たれた塩水の歳月の刻印  
  潮風の暴虐が引き裂いた
  格子窓の序列とそのリズム
  亡霊じみた曖昧さで林立する
  高層住宅の窓々から
  つぶてのように飛来する何ものかの視線
  不死者の圧倒する威厳
 
      
  不在の時は醸成され
  その放逐の断層がひときわ鮮明な護岸の果てに
  おぼつかぬ足取りでたどり着くもの
  瓦礫の隘路に迷いながら
  なおも活路をもとめて虚空に風穴を開けるもの
  その顕わな意志が
  孤島の廃墟を照らすとき
  透明な冒険者はその際に下り立つ
   


自由詩 廃墟島へ Copyright 月夜野 2007-05-11 23:35:14
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