心理さん
楢山孝介

心理さんはココリさんと読む
肩こり首こる背の高いデスクワーカーだ
彼女にはまだ子供がいないので
子供がココリコさんと呼ばれて
いじめられるようなことにはなっていない

心理学に詳しそうな名前ではあるが
本人は幼い頃から自分の名前に全力で逆らって
深く考える前に行動を起こす青春を過ごしてきた
そのせいでたくさん後悔したりもしたけれど
好き放題に生きてきた
それでも寄る年波には勝てず
デスクワークの日々も重なり
肩こり首こり心もこるようになってきた
「自分のことは自分では分からないものね……」
そんな自嘲の言葉を呟くようになってきた
「ココリのシンリはココにアリ」
なんてことは幸い口にしなかった

そんな彼女も恋をした
十歳年下の元ラガーマン
そろそろ結婚を決めないと
いけないような年齢にもなっていた
と本人は思っていた
周りの人は
その年齢は十年前に過ぎてるよ
と思っていた

彼女がにっこり微笑めば
元ラガーマンはぎくりと身構えた
彼女がすっかりめろめろになっても
元ラガーマンは心ここにあらずと逃げ出した

そんな彼女に恋をする
一人の独身中年男性(素人童貞で毛髪半壊)
がいたのだが
彼は心理さんの心理を全く読めない不器用な男で
ただ遠くから眺めているだけだった
彼の髪の毛はころころ落ちた

失恋の坂を転がり落ちた心理さんと
坂の下で待ち構えていた毛髪半壊さんが
結ばれたのはそれから三年後のこと
そこから先はハッピーエンド
心理さんの肩や首のこりは
その後も長く付きまとったけれど
心のこりはほぐされました


自由詩 心理さん Copyright 楢山孝介 2007-05-09 13:26:30
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