息子の声
美砂
君が声をあげて駈けてゆく
たくさんの声のなかから、私はたった一つの声だけに引き寄せられる
どこへいくのか、
だれとなにをしているのか
気になるのは君が楽しいかどうかだ
いやな気持ちを味わっていないかどうかだ
そのとき私の人生など、問題ではなくなっている
君の声が窓から飛び込んでくるとき
そこにあるのは愛しさだけだ
私は窓からのぞく
そこに君がいるとき、すぐにでも抱きしめてあげたくなる
でも一瞬の後
君は自転車にのって、風のようにどこかへ消えている
君の未来がどうか、明るいものでありますように
災難が降りかかりませんように
君の心を捻じ曲げるような哀しい出来事から
どうか、どうか
守られていますように
そして、私より早く死ぬことの、
けっしてありませんように
2002年作